30人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
第五話:『平和記念東京博覧会』での再会
「……俺の?」
斎藤は、思わず聞き返した。ひゐろは黙ってうなずいた。
「……俺たちに、子どもができた」
面会室に座った斎藤の手は、震えていた。
「結婚しよう。獄中にいる夫や父親で、すまないが」
「はい。よろしくお願いいたします」
ひゐろは、斎藤に頭を下げた。
「面会室も独居房もこのように実に狭いし、警察官もそこに座っている。僕は、今すぐここで飛び上がりたいくらいさ」
ひゐろの目は、涙であふれていた。
「ありがとう。うれしいわ」
「早くここから出たい。そのためには、刑務作業の煉瓦づくりに精を出すよ」
「待っているわ。また来週、伺います」
斎藤は、大きくうなずいた。
その夜、ひゐろは満たされた気分で、床についた。
翌朝、ひゐろは玄関に届いた関東日日新聞を広げた。
一面では連日のように、『平和記念東京博覧会』の様子が報じられていた。
昨日の新聞では、入場者数が約一萬五千人とあった。
そして開催の概要が書かれてあった。
今日の新聞では開催の内容について、事細かく書かれていた。
開催されている上野公園には平和の塔が建てられ、高さは百四十尺ある。
他にも機械館や航空館などの産業館や、大陸進出を物語る台湾館や満州館のことなども書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!