第五話:『平和記念東京博覧会』での再会

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花代は次郎の手を引っ張り、なんとか文具館から外へ連れ出した。 「航空館や交通館が見たいんじゃなかったの?もう連れて行かないわよ」 花代がそう言うと、次郎はさらに大きな声を上げて泣く。 次郎があまりにも泣くのでために、『此本(このもと)食堂』という食堂に入った。 調味料を製造している、此本(このもと)産業が経営する食堂である。 立て看板に、定食が八十銭とあった。 「安いわね」 と花代が言った。 「コロッケのような洋食もあるようだから、行きましょう」 ひゐろも同意した。 こうして四人は、『此本(このもと)食堂』に入ることにした。 「いらっしゃいませ!」 そこから出てきたのは、着物に割烹着を身につけた一人の女性だった。 水を差し出す女給の顔を見つめると、ひゐろは驚いた。 「……小夜さん?」 「……」 「京橋の旅館にいた小夜さんでしょ?昨年の年末に、女中部屋でお世話になりました。ひゐろです」 「……ひゐろさん?」 「どうしてここに?旅館は辞められたのですか?」 「ええ。いろいろと事情があって」 小夜はうつむき、それ以上語らなかった。 「そうですか……」 二人の会話を、花代は怪訝(けげん)そうに見ていた。
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