第六話:小夜と小夜の恋人との不思議な関係

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その膳を、花代の長男である太郎に渡した。 小夜以外の女給が、ひゐろと花代の分のコロッケ定食を運び、二人はそれを受け取った。 「……母ちゃん、ここ見晴らしがいいよ」 花代の長男の太郎が、窓を指差した。 「確かに見晴らしがいいね。あそこに見えるのは、浅草だよ」 浅草の眺望を楽しみながら、四人は食事をした。 「……花代さん、小夜さんの恋人のお名前はご存じですか?」 「えーと……何と言っていたかしらね。ちょっと思い出せないわ」 「そうですか。それなら、斎藤さんに聞いてみます」 「思い出したら、伝えるわ」 四人は食事を終え、会計をすました。 小夜は深々とお辞儀をし、 「ありがとうございました」 とだけ口にした。 『此本(このもと)食堂』を後にすると、息子の次郎が花代の手を引っ張った。 「ねえ母ちゃん、不忍池の水上飛行機に乗ろうよ!ねえ、母ちゃん!三十銭あれば、乗れるんだよ」 次郎は強い力で、花代をぐいぐいと引っ張っていく。 「あれは、不忍池の水面を走るだけだろう?」 「いいんだよ!乗りたいんだよ!」 「……悪いけれど、不忍池のほうに行くわ。次郎がうるさいから、またね!」
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