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ひゐろと花代は、『此本食堂』の前で別れた。
ひゐろは一人で電氣工業館へ行き、圓形陳列䑓の電氣仕掛けの造花を不思議そうに見ていた。
あの造花はどのようなしくみで、花びらが開いたり閉じたりするのだろうか。
花芯にある豆電球は、なぜ点滅するのだろうか。
不思議なのは、電気のしくみだけではない。
小夜と斎藤が繋がっているなんて!
世の中は、摩訶不思議なことばかりだとひゐろは思った。
その後、ひゐろは文化村へ行くことにした。
女性雑誌『女性読本』で特集されており、『平和記念東京博覧会』の目玉だと書かれていた。
文化村には和洋折衷の住宅が並んでおり、女性たちは皆、文化村を楽しみにしていた。
ひゐろもご多分にもれず、この和洋折衷住宅の虜になった。
なかでも、ひゐろはバルコニーのある和洋折衷住宅に魅了された。
西洋風の上げ下げ窓のついた、白い外壁の家。
総建坪で三十二坪、六千二百圓だという。
内覧させてもらいながら、いつか斎藤とおなかの子どもと暮らせたら……とひゐろは思った。
十七時を過ぎた頃に上野駅を出て、ひゐろは市電に揺られていた。
明日は、オートガールの仕事の日。
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