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第七話:頑固だった父の想い
“……お父様!!!”
電報がひらりと、床に落ちた。
ひゐろは台所の作業はそのままに、市電に乗った。
……どうかご無事でいて。
……わがままな私を許して。
ひゐろが本郷の実家に戻ったのは、二十時を過ぎた頃だった。
早歩きで帰ってきたせいか、ひゐろは息を弾ませていた。
玄関をガラリと開けて
「帰りました!」
と伝えたものの、出て来たのは女中だった。
「ここにいるのは、留守番の私だけです。奥様もお兄様方も、駒込の病院にいらっしゃいます。ただいま俥夫を呼びますから、すぐにお出かけください」
女中はいつもよりはるかに慌てふためき、外へ俥夫を呼びに出かけた。
まもなくすると、俥夫と人力車がひゐろの実家に到着した。
ひゐろは人力車に乗って、駒込にある病院へ向かった。
ひゐろが受付の担当者に父の名前を告げた。すると
「風倉三重吉さんなら、隔離所にいます。感染の可能性がありますので、ご家族であっても入室できません。ただ先にお越しになったご家族が待合室にいらっしゃいますので、これからご案内します」
受付の担当者の後を追い、真っ直ぐに伸びた暗い廊下をひたすら歩んだ。
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