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それでもひゐろは自宅から持ってきた厨川白村の『近代の恋愛観』を読みながら、お客さんを待ち続けた。
「……初子さんは、上野公園で行われる『平和記念東京博覧会』に行くのかい?」
事務員は机でお茶を飲みながら、突然ひゐろに話しかけてきた。
「十日からでしたね。興味はあるんですけど、今のところは行く予定はありません」
「行くと良いよ。舞踏や映画、各都道府県からの出品などもある。刺激があっておもしろいんじゃないかな。若い君たちなら、刺激があるはずだよ」
「そうかもしれませんね」
「銀座のカフェーパウリスタも出展するらしいよ。興行所や食堂を出すらしいよ」
「……カフェーパウリスタですか!」
事務員の言葉に、少しのぞいてみたいなとひゐろは思った。
そうだ、久しぶりに珠緒を誘おうと。
「まぁ行かなくても、その様子は後日絵葉書になって確認できるだろうけど」
事務員は独り言のようにそう言った。
……絵葉書か。
斎藤さんは、『平和記念東京博覧会』の絵葉書の準備で忙しいのではないだろうか。
『平和記念東京博覧会』は必ず盛況するだろうから、印刷する数もかなりの量であろう。
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