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外来患者のいない大病院はがらんとしており、静けさだけがそこにあった。
「……こちらです」
受付の担当者が扉を開けると、母の民子と次兄の三吉がそこにいた。
ひゐろは肩を一度ポンと叩かれ、振り返ると長兄の重蔵が立っていた。
「……たった今、お父さんが亡くなったよ」
その声を聞き、民子は泣き崩れた。
父の遺体とも対面できないまま、家族四人は重蔵の車で帰宅した。
ひゐろは朝一番に、口入れ屋に電報を打ち、忌引を取ることを伝えた。
父の遺体はそのまま火葬場に送られ、白い包みの小さな遺骨となってひゐろの実家に帰ってきた。
「……あの父さんが、こんな姿で帰ってくるとはね」
重蔵がポツリと言い、遺骨を仏壇に運んだ。
三吉は葬式の準備で、座布団を敷き詰めていた。
その後、重蔵は新聞社に電話をし、新聞に葬式について掲載することにした。
すると翌日の葬式には、近所の人はもちろん、三重吉の勤め先である学校関係者や教え子など、本当にたくさんの方々がお越しになった。
学校関係者はおしなべて地味な風貌をしていたが、秘めた情熱をそこはかとなく感じる人も少なくなかった。
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