第八話:ハヤシライスと面会

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第八話:ハヤシライスと面会

「……やはりそうだったのね。相手はどなたなの?」 民子は、ひゐろにたずねた。 「斎藤英太郎さんとおっしゃるの。孟さんの帝大の同級生。うちにもお越しになったことがあるわ」 「……もしや孟さんが亡くなった時に、お越しになった方?」 「ええ。その方よ。私も予想だにしなかったことだから、お母様が驚くのも当然だと思うわ」 民子は唖然(あぜん)としていた。 「今度、お連れしてちょうだい。お会いしたいわ」 「わかりました」 斎藤は今、小菅監獄(こすげかんごく)にいます、とは到底言えなかった。 「この際だから、お母様にお話しておきます。私は銀座で、オートガールをしているの」 「……オートガール?」 「ええ。自動車の運転手の隣に座って、お話をする接客業よ」 「見知らぬ男性の車に乗るの?」 「そうよ」 「……」 民子は口篭(くちごも)ってしまった。 「孟さんが亡くなった後、斎藤さんがオートガールのお客さんとしてお越しになってくれたわ。貯めたお金を私のために使って、話す機会をつくってくれたの。孟さんのことも話すようになって、仲が深まっていったわ」 「……そうなのね。結婚式や入籍については、彼にお会いした際にゆっくりと話をしましょう」
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