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繁忙期が過ぎたら、きっと帰ってくるに違いないとひゐろは思った。
「あと二時間ほど待ってお客様が来なかったら、今日は帰ってもよろしいでしょうか」
ひゐろは事務員にたずねた。
「あぁ、いいよ。しかし今日は暇だね」
事務員は帳簿を開きながら、そう言った。
結局、二時間経っても客は誰も来なかった。
それでひゐろは、珠緒のいる松下屋百貨店まで出かけることにした。
松下百貨店も、お客がまばらであった。
地下に行くと、下足番をしている珠緒の姿があった。
珠緒も手持ち無沙汰だったのか、すぐにひゐろに気がついた。
「ひゐろ、久しぶりじゃない!もう少しで仕事が終わるの。ちょっとここで待っていて」
十五分ほど経った後、珠緒は仕事を終え、二人は松下百貨店を出た。
「……どう最近?」
ひゐろは、珠緒に切り出した。
「実は私、日舞の師範の免状を取ったの。それで来月、松下百貨店の下足番を辞めるわ。これから日舞の道で生きていく」
「初志貫徹なのね!さすが珠緒だわ。私よりずっと才能があったもの」
「ひゐろは、よく休んでいたからよ」
「弁解の余地もございません」
二人は声を上げて笑った。
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