第二話:母の直感と共同水道の女

1/4

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ

第二話:母の直感と共同水道の女

「私は不順気味だから……」 「それじゃ、来ていないのね」 「……」 「……相手は誰?」 民子の問いかけに、ひゐろは何も返さなかった。 ―遅れている。確かに。 斎藤さんの子どもを、私が(みごも)っているの? まさか……。 「念のため、病院へ行くといいわ。それからね、最近お父さんの身体の調子が良くないの。ひゐろの元気な顔を見せてあげて」 「きっと私の顔を見たら、お父様は怒るわ」 「今はひゐろを怒るほど、お父さんは元気じゃないのよ」 「……」 ひゐろは、即座に父の部屋に向かおうとした。 すると民子がひゐろの腕をつかみ、それを制した。 「やめなさい。お父さんは病院の検査で、腸チフスであることがわかったの。明後日から入院よ。今のあなたの身体では、行かないほうが良いわ」 ―――お父様が腸チフス ひゐろには、信じられなかった。まさか顔も見られない状況になるなんて。年始には、実家に帰るべきだった。 「……私はこれで帰ります!失礼します」 玄関先で珠緒が声を上げ、そのまま去っていった。 「ごめんね。珠緒ちゃん、ありがとうね」 「珠緒、ありがとう!またね」 玄関へ向かってひゐろと民子は声を上げ、珠緒に礼を言った。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加