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第二話:母の直感と共同水道の女
「私は不順気味だから……」
「それじゃ、来ていないのね」
「……」
「……相手は誰?」
民子の問いかけに、ひゐろは何も返さなかった。
―遅れている。確かに。
斎藤さんの子どもを、私が孕っているの?
まさか……。
「念のため、病院へ行くといいわ。それからね、最近お父さんの身体の調子が良くないの。ひゐろの元気な顔を見せてあげて」
「きっと私の顔を見たら、お父様は怒るわ」
「今はひゐろを怒るほど、お父さんは元気じゃないのよ」
「……」
ひゐろは、即座に父の部屋に向かおうとした。
すると民子がひゐろの腕をつかみ、それを制した。
「やめなさい。お父さんは病院の検査で、腸チフスであることがわかったの。明後日から入院よ。今のあなたの身体では、行かないほうが良いわ」
―――お父様が腸チフス
ひゐろには、信じられなかった。まさか顔も見られない状況になるなんて。年始には、実家に帰るべきだった。
「……私はこれで帰ります!失礼します」
玄関先で珠緒が声を上げ、そのまま去っていった。
「ごめんね。珠緒ちゃん、ありがとうね」
「珠緒、ありがとう!またね」
玄関へ向かってひゐろと民子は声を上げ、珠緒に礼を言った。
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