第二話:母の直感と共同水道の女

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「……先日、斎藤さんに会ったわ」 「えっ?どこで?」 「二月二十日よ。上野から市電に乗ってきて、東京駅で別れたけれど」 斎藤さんから「京橋にといっしょに行こう」と言われた日だ。斎藤さんは、日本橋に行こうとしていたのは間違いないのだろう。でもなぜ、東京駅で行方をくらませたのだろうか。 「あの日、斎藤さんがね『俺も松山さんのように捕まるかもしれない』と独り言のように言っていたわ」 花代がそういうと、ひゐろは合点がいった。私を追手から逃すために、先に市電に乗せたのではないかと。東京駅まで花代さんがいっしょだったなら、日本橋に向かう間に斎藤さんは警察に捕まったのだろうか。 「花代さん。実は私、斎藤英太郎さんを愛してしまったんです」 「……えっ?」 「斎藤さんの行方がわからないんです。二月二十日から帰ってこないんです」 「帰ってこない?あなたたち二人は、いっしょに暮らしていたの?」 ひゐろは、うなづいた。
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