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若年性認知症になった夫が赤信号を無視して横断歩道を歩き、
車に挽かれ、亡くなった。
私が少し目を離したせいで、歩き出した夫を止められず、夫にはもちろんだが、相手の車の運転手にも申し訳ない思いでいっぱいだ。
大柄な夫の身体を制するには小柄な私にはとても大変な事だった。
私の方が先に死んでもおかしくない状況が何度かあった。
まだ信号が変わり切らないのに、歩き始めようといた夫を止めるが、反対に押された。
誰もが息を飲むような時間だった。
子供はある施設にいる。
普通の生活を普通には過ごせない性質だ。
何度か子供に父親が亡くなった事を伝えたが、伝わってないと思う。
子供の世界にもう私達はいなかった。
ある日
子供は決められた数の薬をなぜか倍以上飲んでしまったようで、
身体が耐えられなかった。
私も普通ではない日常を過ごしてきたから、普通ではなかったかもしれない。
パート先では理不尽な、子供と変わらないいじめを受けていた。
もちろん、大人がすること。あからさまではない。
何で自分がこのような事をされるのか受け止められない。
大人だってつらい。
やらなければならない事を済ませた私は空っぽだ。
・・・悲しい?
自分に問いかける。
もちろん、嬉しくはない。でも悲しいと同じ分正直ほっとしている。
私はある夜、寝ているはずなのに誰かと話をしていた。
翌日、私は自分の寝ている姿を見ている。
何だかすごい年を取っていた。
自分の事を構う時間がなくなってから、鏡なんて見てない。
だから、自分がどんな姿でいるのか知らない。
さて、いこうかな・・・
それからまるで麻酔をかけられたように、意識はす~う~と上に昇った。
私の魂が引っ越し出来ると告げられたあの夜。
まったく新しい人生を送るためにそれまでの記憶がなくなると言う。
・・・
それでいいですと即答した。
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