おひどり様カラオケ

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※ 「コケコッコー!!」  鼓膜を揺さぶった大きな鳴き声。 ――うわぁぁ!  僕は身を起こしながら悲鳴を上げた。はずだったが、 ――あれ?  実際に声は出ていなかった。喉元を押さえる。走った痛みに顔を歪めた。 ――確かヒヨコと歌の特訓をしてて……。  辺りを見回す。整列する下駄箱に「雄」と「雌」の暖簾。見覚えのある番台――いつの間にか僕は、上り框の近くに横たわっていたようだった。 「目が覚めたピヨね」  振り返って息を呑んだ。鼻息がかかる距離に巨大なニワトリの顔面があった。 「おれっぴはここピヨ」  赤く立派なトサカの隙間からヒヨコが顔を出す。 「一瞬おれっぴかと思ったピヨ? 残念だけどおれっぴ自身、まだまだ理想には届かないピヨ」  遠い目をするヒヨコに、僕は喉に手をやり口を大きく開いた。 「ピヨ? もしかして声が?」  意図が伝わったことに安堵し、ゆるめた表情を、 「やったピヨね!」  次の瞬間強張らせた。 「こうしちゃいられないピヨ」  ヒヨコがニワトリから僕の肩に飛び移る。 「合コンは今からだったピヨ?」  僕は困惑しながらも頷いた。 「母ちゃん、行ってくるピヨ」  ヒヨコがニワトリを見上げる。ニワトリはゆっくりと頭を振った。 ――お母さんだったんだ。  状況についていけず、呆けていた僕の頬をヒヨコが突いてくる。 「ボヤボヤしてる暇ないピヨ、急ぐピヨ!!」  急かされて走り出した。下駄箱から靴を取り出し、引き戸を開け放ち、外へと飛び出す。 「安心するピヨ」  足を止めず肩に目をやる。ヒヨコが意味ありげな微笑を浮かべていた。 「目的地に着く頃には声が出せるようになってるはずピヨ。メス達を虜にする理想の歌声がね……ピヨ」 ※    
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