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祖母のすべて
#4
私の思いつきはこうだ。
祖母の好きなジャズを部屋で聴かせたらどうだろうというものだ。
実は以前、海外のドキュメンタリー映画で、認知症患者に音楽を聴かせる、いわゆる音楽療法を行ったところ、それまで朦朧としていた患者が、目を輝かせて歌い出し、認知症の改善にもなったということを思い出したからだ。
2人は顔を見合わせ戸惑った顔をしたが、最終的には伯母さんが、施設に相談してみる、ということになった。
昔の好きな音楽を聴くことで、祖母に何かしらの変化があればと、私は淡い期待をした。
それから数日後、マチコ伯母さんから連絡が来た。
小さな音なら、音楽をかけてもいいという返事だった。
私は伯母さんに、祖母が好きだった曲を聴いた。しかし伯母さんは覚えていないという。それなら祖母の部屋にCDがあるのではと聞いたが、レコードしかないという。であれば、そのレコードに入っている楽曲をケータイで撮って送って欲しいと頼んだ。
伯母さんは珍しくあまり気乗りしない返事だった。少し時間がかかるわよと言ったので、お願いしますとお礼を言った。
レコードプレーヤーを持ち込む訳にはいかないが、サブスクなら古い曲も結構ある。ケータイと自分が持っているBluetoothの小型のスピーカーを持っていけば、小さな音でも耳元で聴かせられる。
それから3週間。
やっと伯母さんから写真が送られて来た。
最初の一枚目の写真に、私は面食らった。
祖母の所蔵していたレコードコレクションは、彼女の部屋には入り切らず、倉庫に移してあったのだ。
伯母さん曰く、その数、なんと約3000枚。
伯母さんが気乗りしない返事をしたのも頷けた。
気軽にリストを写真で送ってくれと言った自分を私は後悔したが、祖母の介護の少しは気晴らしにもなったのではと、無理矢理思うようにした。
リストが来てから、私は祖母専用のプレイリストを作り始めた。
『祖母のすべて』
それがプレイリストのタイトルだ。
毎日何時間もかけてリストの曲をサブスクから探し、一曲一曲プレイリストに入れていく作業は楽しくもあったが、大変な作業でもあった。気づくと朝になっていることもよくあり、ずっとケータイを見ていた目はしょぼしょぼで、学校では爆睡する日が続いた。
プレイリストには当初100曲入れたが、そこから独断と、祖母が好きだと言っていた曲、よく歌ってくれた曲をセレクトし、年が明けた1月の末に『祖母のすべて』は完成した。
施設に行く日を母と相談していた時、伯母さんから思いもしない連絡があった。
祖母が誤嚥性肺炎になり、ICUに緊急入院したというものだった。
しかも、重篤。
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