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 頑丈で重いスーツケースの物を軽いリュックサックに移した。スーツケースを転がして歩くのは歩き難い。恵和は、それが不満だった。  恵和は、満足していた。ベッドに倒れ込んで天井を眺めた。北朝鮮を脱出すると思うと、とても気持ちが昂った。金一族のために生きるなんて馬鹿気たことをしなくていい。  そう考えると、すごく幸せだ。金一族のために二千五百万人の人々が、苦痛に耐えて生きるなんて馬鹿気た話だ。  恵和は、家族に黙って脱北するのは悲しかった。家族と普通に暮らすことすら、この国は許さない。ふざけた国である。 なんと言ったって、馬鹿な金一族が牛耳っているのがいけない。 恵和は、こんな国に生まれたことを呪った。
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