辺境の押し込み強盗

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辺境の押し込み強盗

 物盗りだ、とはすぐにわかった。  御前闘技会前の剣士並の、凄まじい殺気だった。そのくせ、悪事を企むやつ特有の落ち着かなさもほんの少し感じる。どう考えたってまともな客じゃあねえ。  まあ、珍しいことじゃねえんだが。うちは金目の物なんざ置いてねえ、しがない村鍛冶屋ではある。だが、自宅兼工房が人里をちょいと離れた山ん中にあるせいで、ついでにオレが見た目十五くらいの若造にしか見えないせいで、襲いに来る馬鹿が年に一回くらいは出やがる。めんどくせえ。  ま、今回もちゃっちゃと脅して、追っ払ってやるとしよう。揉め事は嫌いなんだよ。  オレは赤く熱した鉄を叩きながら、入ってきた「客」をちらりと眺めた。 「……いらっしゃい。用があるなら手短に頼む」 「鍛冶屋ロルフの店はここか?」  声に抑揚がねえ。とことん感情を押し殺した喋りが、不気味だ。  名前を呼ばれたのは意外だったが、まあ、入口に「ロルフ・バウアー鍛冶店」って看板が掛けてあるからな。油断を誘うためかもしれねえ。緊張を解くのはまだ早い。 「あってるぜ。ご指名とは光栄だな……で、何の用だ」  直に目を合わせないようにしながら、様子を窺う。  オレより、頭一つとちょっと分くらい背が高い――つまりは並の大人の男より若干高い――客は、フード付きの外套をかっちりと着込んでいる。灰色の羊毛で織られた、山賊にしちゃあ上等な生地だ。しかし裾の方は風雨に汚れ、幾分すり切れかけている。腰には何か長いものを差している……ちょうど、長剣(ロングソード)くらいの。  フードを目深に被っているせいで、顔は見えねえが……やっぱり、とんでもねえ殺気だ。十人並の強盗にしちゃあ不自然なくらいに。  いつもの山賊よりは厄介かもしれねえな。ま、いざとなりゃあ、オレの「炎の拳」を叩き込んでやるだけだが――とか考えていると、客が口を開いた。 「強い武具を探している」 「よそをあたってくれ」  客の言葉尻にかぶせて、極力そっけなく答える。  何のつもりだおまえ……と、内心で吐き捨てる。武具が欲しけりゃ、王都エーベネでも鉱山街シュタールでも、いくらでも探す所はあるじゃねえか。なんでこんな、なにもねえ山ん中に来てやがる。オレはもう、剣も鎧も打たねえって決めたんだよ。揉め事に巻き込まれるのはもうごめんだ。  それとも、難癖付けて強盗を働くつもりか。十中八九そっちの線だろうな。  とはいえ、こっちから決めつけるわけにもいかねえ。あくまで客扱い、しかし愛想は見せないように、オレは返事をした。 「見ての通りの村鍛冶屋なんでな。(すき)や鎌なら用意できるが、武具はねえよ」
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