千二百デニールの壁

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 買い物を済ませ、そそくさと自宅に帰った。ソファで一息ついたあと、試しにあの黒タイツをはいてみようと思った。いつもは試しにはこうと思わないのだが、あの日は何故か違った。  テープをはがしてパッケージからタイツを取り出す。ソレは見た感じちょっと分厚いかなぁと思うくらいの、ごく普通のタイツだった。    早速右脚のつま先を、タイツの入り口に突っ込んだ。するりと引き上げると、とても着心地がいい。さて、左脚も……。  そう思ったとき、私の頭にふと阿呆な考えが浮かんだ。 ——このタイツは、どれくらい伸びるのだろうか。 ……パッケージ記載の「よく伸びる」という言葉が、私の何かを突き動かしたに違いない。  あのとき私はなんと、左脚の入り口ではなく、既に右脚が入った方にのつま先をそっと差し込んだのだ!   それは、まさにと言うにふさわしいという状況であった。そして不思議なことに、その左脚もするりするりと中に入っていったのだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加