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お濃は疾風に乗って、信長と初めて訪れた草原の丘まで駆け上がり、一人物思いにふけっていた。
(あの時、私を助けてくれた侍の正体は、やはり信長様だったのね…!私は何と愚かなのだろう・・・命の恩人がこんなに身近にいたのに、全然気づかなかったなんて・・・!)
(でも、これでこれまでの疑問が次々と腑に落ちていく。信長様が疾風に近づいても暴れなかった理由も、どこかで聞き覚えのあった声の理由も、そしてあの時、抱きかかえられた時に嫌な感じがせず、感触が不思議と心地よかったこと、私の特異な考えを理解してくれたお方であったことも・・・これですべてが繋がったわ…!)
(あとは直接殿に確かめなければ!こうしてはいられないわ、早く城に戻らなければ!!)
お濃は疾風のたてがみを軽く撫でると、「城へ戻りましょう!」と強く囁き、疾風を一気に那古野城へと駆けさせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お濃は城の自室に戻り、各務野に着替えを手伝わせていた。
「各務野!疾風の馬の持ち主が、ついにわかったの!」
「えっ?一体、どなた様だったのですか?」
「それが・・・信長殿ご本人だったの!」
「えっ?信長様が??尾張の跡取りが、わざわざ直接美濃に潜入するなんて・・・なんて大胆不敵なお方でしょう!」
「でも、確かに、あの殿を見ているとやりかねないわ!信長殿らしい。あのお方は、何事も直接ご自分の目で確かめないと信用しないご性分ですもの・・・けれど、こんなに近くにいたのに私が気づけなかったなんて…悔しいわ!」
「わかります、なんだか私も悔しゅうございます。見事にやられてしまいましたね」
「それに、周りのみなに口止めしていたみたいなの・・・ただ新吉はちょうど殿が馬を美濃に置き去りにしたころ、病気療養で馬番の仕事から離れて、昨日から復帰したみたいだから、まだ上手く命令が伝わっていなかったみたいで色々教えてくれたのよ。途中で小平太に遮られてしまったけど・・・。」
「でも、なぜ信長様は姫様にそのこと隠したのでしょうか。伝えれば、姫様のお心を開くことも容易だったはずなのに・・・。」
「殿は、そういう手段で私の心をつかむのがお嫌だったのかもしれない。あるいは、そもそも私の事を政略結婚の相手としてしか見ておられないから、あえて言うまでもないと思ったのかも・・・。」お濃はふと寂しげにつぶやいた。
「姫様・・・もしかして、姫様は信長様のことをお好きになられたのではないですか?」各務野は思い切ってきりだした。
「最近の姫様のご様子をみて、私は何となく気づいておりました。あの侍や信長様に、とても関心をお持ちになっているご様子だったので・・・。」
「各務野・・・正直、今の自分の気持ちがよくわからないの・・・。殿のお気持ちがわかるまでは、決してこちらから深追いしてはいけないと自制していたけれど、日に日に殿の事を考えると胸が痛むのよ・・・美濃で光秀のことが好きだった時は全然違う。光秀の時は、ここまで胸が痛まなかった。あの時は、ただただ初恋で浮かれていただけだった・・・。
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