【第11話 侍の正体】

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お濃が陰に隠れていた間に、信長の姿を見失ってしまった。 (信長様の孤独なお心を、私が少しでも癒して差し上げたい・・・) お濃が信長の事を探しに厩に行くと、いつの間にか信長の愛馬がいなくなっていた。 (一体殿はどこに行かれたのか・・・) 「奥方様!!」 「犬千代殿!」 「殿を見かけませんでしたか?」 「私も殿を探しに厩へ来たのですが、既に殿の愛馬がいなくなっていました。」 誰にも言わず、いなくなってしまわれたのです!探してもみつかりません。どこか思い当たる場所はありませんか?」 「実は先ほど、殿と義母上様との会話を偶然聞いてしまい、私も心配しておりました。義母上様は殿に“そなたに愛情を感じない”と言われ、殿はとても傷ついたご様子でした。それで私も心配で、殿を探していたのです。」 「奥方様、ここからは我らにおまかせを。我らが殿を捜し、必ずや殿を見つけます!」 「いいえ、犬千代どの。私は黙って殿を待っているわけにはいきませぬ。私も探します!」犬千代が止めるのも聞かず、お濃は飛び出していった。 「奥方様!!」犬千代が叫んでいると、勝三郎と万千代もそこにやって来た。 「奥方様も殿を探しにいかれた。我らも殿を探しにいくぞ!」 「おう!!」 (殿・・・一体いずこにおられるのですか?)お濃は信長の事が心配で、胸が張り裂けそうだった。 すると、お濃は以前信長に連れて行ってもらった、川辺のとある場所のことを思い出した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 思い出の場所に行ってみると、さみしそうに座りこんで空を黙って見つめている信長の後ろ姿を見つけた。 お濃は疾風から降り、足早に駆け寄り、信長を後ろから抱きしめた。 「殿、探しましたよ!ようやく見つけました!とても心配しておりました!」 お濃の声が涙声になり震えた。 すると信長は、驚いた様子で後ろを振り返り、抱きしめていたお濃の腕を振り払った。 「俺にかまうな!マムシの娘に何がわかる!!」信長は怒鳴った。 お濃は負けじと、涙を浮かべながら言った。 「ええ、濃には殿のお気持ちのすべてはわかりませぬ!けれども、義母上様との確執や殿のお寂しい気持ちは察しがつきます!もう、どうかお一人で抱え込まないでください。どんな時でも、濃が殿のおそばにおります!濃は、殿にどのように思われても、政略結婚の相手としてしか思われていなくても構いませぬ。私は・・・私は・・・ほんの少しでもあなたの心の支えになり、そばにいて一緒に笑ろうたり、泣いたりして、共に歩んでいきたいのです!!」お濃は必死に訴えた。
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