【第1話 稲葉山の美しき蝶】

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【第1話 稲葉山の美しき蝶】

〔プロローグ〕 ~時は16世紀、応仁の乱以降室町将軍家の力が弱まり、日本各国に力のある大名が台頭し日本各地で戦乱が続く戦国時代が続いていた。 その中で、京の油売りから身を起こし、美濃(現在の岐阜県)の土岐氏の家来となり、次第に力をつけ、ついには土岐氏を追放して美濃の支配者となった斎藤道三と隣国尾張(現在の愛知県)の斯波家家臣から台頭し力を振るうようになった織田信秀はたびたび戦をして常に緊張関係にあった。また駿河の大大名今川義元は、上洛の機会を伺い、天下を狙っていた。 そのような情勢の中、1534年尾張で織田信秀と正室、土田御前との間に吉法師(のちの織田信長)が、翌年1535年美濃で斎藤道三と正室、小見の方との間に帰蝶(のちの濃姫)が誕生した。二人の運命がここから動き出したのである。尾張では吉法師が強く荒々しく、一方、隣国美濃では帰蝶が美しく賢く成長した。~ 【第1話 稲葉山の美しき蝶】 〔帰蝶誕生から14年後〕 美濃の稲葉山城では「マムシの道三」と恐れられていた斎藤道三が愛娘、帰蝶(のちの濃姫)の誕生日祝いに何を贈ろうかと頭を悩ませていた。 子供は数名いたが、道三にとって帰蝶が誰よりも可愛く、目に入れても痛くないほど溺愛していた。 道三は城下の商人たちと連絡を取り、特別な品々を集めることに決めていた。帰蝶が喜びそうな美しい着物や、珍しい花々、贅沢な食べ物など、さまざまな贈り物が次第に稲葉山城に集まっていった。 「帰蝶の誕生日が近い。何を贈れば一番喜ぶかのう・・・」道三は正室であり帰蝶の生母である小見の方に語りかけた。 「世の人々から“まむし”と恐れられているあなた様が、娘の誕生日の贈り物に頭を悩ませているとは・・・愛娘にかたなしのお姿を世の人々が知ったら、さぞや驚かれる事でしょう」小見の方は微笑みながら答えた。 「これ!からかうでない!」道三は一喝したが、本気で怒ってはいなかった。 「帰蝶は大変美しく、しかも賢く育ってくれた。そろそろ嫁がせねばならぬ。嫁がせるなら、くだらん男には嫁がせたくない!」 「その事なら殿、わらわに少し考えがあります。帰蝶にふさわしい男子(おのこ)がおりまして・・・」 「それは誰じゃ!?」 「それは・・・」小見の方が名前を言おうとした瞬間、 「父上、母上!!」帰蝶が突然部屋に飛び込んできた。 「どうしたのだ、帰蝶?」 帰蝶は目を輝かせながら「今、堺から鉄砲が届いたと聞きました!最新型の鎧も届いたそうです。帰蝶も是非見てみたい!父上、私も是非連れて行ってくださいませ」 「これ、おなごがそのような・・・」小見の方は帰蝶をたしなめた。 「良いではないか。帰蝶は好奇心旺盛で、わしによく似ておる。よし、鉄砲の試し打ちをやるから光秀を呼んでまいれ。そなたも一緒に来てよいぞ。」 「ありがとうございます、父上。帰蝶はワクワクしてたまりません!母上、失礼します!」と満面の笑顔で部屋から出て行った。 「ほんに、まだまだ子供のようですね。」小見の方はあきれ顔で言った。 「いや、あれで中々度胸がすわっておる。よし、行ってまいる」道三も立ち上がって部屋から出ていった。 小見の方はため息をつきながら帰蝶の行く末を心配していた。 「あれだけ勝気で賢い娘であれば普通の殿方と上手くやっていけるのかどうか・・・やはり姫のことを一番理解してくれている男子に嫁がせたい・・・」 小見の方はある男子を帰蝶の婿にと心に決めていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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