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帰蝶は道三の指示どおり、稲葉山城内の馬小屋で馬の世話をしていた明智光秀を呼びに行った。
光秀は帰蝶より7歳年上で、光秀の父親である光綱の妹が帰蝶の母小見の方であることから、帰蝶と光秀は従妹として小さい頃から小見の方に連れられてよく明智家に遊びに行き、慣れ親しんだ間柄であった。
「十兵衛!」
「あっ、帰蝶様!」
「父上がお呼びです。堺から鉄砲が届き、試し打ちをしたいそうなので、来てほしいとのこと。帰蝶も一緒に参ります。父上から私も見てもよいとお許しをもらっていますので」帰蝶は光秀に満面の笑顔で伝えた。
帰蝶の笑顔の輝くばかりの美しさに、光秀は思わず見とれてしまった。
「十兵衛、どうかしたの?」
「いや、何でもないです。参りましょう。」光秀は平静を装い、笑顔で答えた。
2人は修練場に向かって歩き出した。春爛漫の桜の下を歩いているうちに何故か帰蝶の胸が高まってきた。光秀とは従妹同士の間柄で小さい頃から共に遊び、兄のような存在だと思っていたのに、近頃はまともに顔を合わせるのが恥ずかしくて、胸の高鳴りを抑えることができなかった。帰蝶は「光秀は本当に頼りになるし、優しいし…。私、どうしてこんなに心がときめくのだろう。もしや、これが初恋なのかもしれない・・・」と最近になって自分の気持ちに気づき始めていた。
一方光秀の方は、かなり以前より帰蝶の事を愛している事に気づいていた。
「必ず帰蝶様を妻に迎え、生涯帰蝶様を守り抜く!」と心に固く誓っていたのである。
二人はどこかぎこちない会話のやり取りをしながら修練場に向かっていった。
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やがて帰蝶と光秀は修練場に到着した。
「殿、参上いたしました」
「おう、光秀、帰蝶も来たか。早速はじめるぞ!」
「はい」
道三の指示で、鉄砲の試し打ちが始まった。道三は光秀に鉄砲の使い方や注意点を教え、光秀はそれを真剣に聞き入れながら実践した。帰蝶も初めて見る鉄砲の威力に興奮し、その様子を注視していた。
道三は光秀の秀才と将来性を見込んで、兵法や鉄砲、砲術、槍、行商など、あらゆる分野の事を教えていたのだった。
鉄砲の音が鳴り響く中、修練場は煙と興奮に包まれていく。光秀の操る鉄砲は的を見事に射抜き、道三は満足げな表情を見せた。
「よくやった、光秀!これで戦にも役立つだろう。」
「ありがとうございます、殿!」
帰蝶はそんな二人の姿をうっとりと見つめていた。
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