【第6話 ウツケの殿とマムシの娘】

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お濃は城に戻り、部屋の縁側で物思いにふけっていると、突然、小さく愛くるしい女の子が駆け寄ってきた。 「まぁ、なんてお美しいお方!もしかしてお兄様のお嫁さん?」 「あなたは・・・信長殿の妹君?」 「はい!私はお市です!」 「お市どの・・・あなた様こそ、なんて可愛らしい女の子でしょう!私はあなたの兄上信長殿に美濃から嫁いできたお濃と申します。これからどうぞよろしくお願いいたします。」 「私、お義姉様と仲良くなりたい!これからお義姉様とお呼びしていい?」 「是非是非!私もお市どのと仲良くなりたいわ。私には弟しかいなくて、妹がいなかったから、妹ができてとても嬉しいのです!お市どのはここにはよく遊びに来るのですか?確か義母上様と一緒に末森城に住んでいると聞きましたが・・・」 「はい!私お兄様のところによく遊びにきます。だって信長お兄様が一番お市と一緒に遊んで可愛がってくれるから」 (信長殿にもこのような面があったとは・・・確かにこのような光り輝くような愛くるしい妹君であれば可愛がるのも無理はない・・・) 「お市様、お迎えが来ました。もうお帰りの時刻でございます」 那古屋城でお濃の部屋付きではないが、奥の腰元の一人である雪乃がお市を呼びにきた。 「あぁ~あ、もっとお義姉様といっぱいお話したかったのに・・・残念」 「お市どの、またいつでも遊びに来て下さいね!私も楽しみにしています」 雪乃に連れていかれたお市は、振り返って満面の笑顔でお濃に手を振った。 これが後に悲劇の運命をたどる絶世の美女、お市の方との初めての出逢いであった。 「各務野、信長殿の妹君、お市どのはなんて愛くるしい素直な姫君なのでしょう!私もとても気に入ったわ。」 「ええ、なんでも信長殿も兄弟の中で一番可愛がっているとのこと。信長殿や信行殿と同じ母、土田御前様のお子にございます。」 「義母上様から信長殿のことは悪し様に聞かされているはずなのに、お市どのはそれに影響されず、殿のことを慕っておられる・・・とても賢い姫のようね」 「はい。美しいだけでなく聡明な姫様でいらっしゃるようです。だから信長様もお市様のこと殊の外可愛がっていられるのでしょう。」 「私もお市どのとは仲良くなれそうだわ。あんな可愛い素直な妹ができたら、この城での暮らしも楽しくなりそうだし。とても嬉しい。殿よりも仲良くなれそう!」 「まぁ、姫様ったら・・・」 お濃はお市との出逢いに心躍らせていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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