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その日の夜・・・
「琴乃。お濃の身辺で何か変わった動きはないか?」
「信長様。今のところ特段変わった動きはございません。ただ、奥方様や各務野は私に対して非常に警戒感を持っており、私よりもお勝を重宝しております。中々容易に近づけず困っております」
「それはそなたの失敗じゃ。なにゆえ警戒心を抱かせるような行動を見せたのだ」
「申し訳ございません」
「お勝は情にもろすぎる。琴乃、そなたがしっかり監視せよ。特に各務野の動きを見張れ。各務野は道三がつけた女丈夫。おそらく尾張の内情を色々と嗅ぎまわっているはずだ。」
「かしこまりました。」
「それと・・・ご報告するまでのことではありませぬが・・・」
「なんだ?」
「奥方様は毎日お守りをずっと眺めていらっしゃるのを何度かお見掛けいたしました。この間、各務野とお話されているのが聞こえたことがありましたが、そのお守りはどうやら美濃でお慕いされていた方からもらったもののようで・・・まだそのお方のことをお忘れにはなられていないようです。」
琴乃がそのことを言った途端、信長の胸はなぜだかとても痛くなった。
「そのような事はどうでもよいこと。余計な報告は無用じゃ。それに、そなた初夜の時にお濃に余計なこと言ったようだな。今後、俺の私事に関わる余計な事をしたら厳罰に処す。心しておけ!下がれ!!」と信長は琴乃に怒鳴った。
「殿、申し訳ございませんでした。今後このようなことないように気を付けます」
と言って琴乃は下がった。
琴乃が下がった後、信長は、怒りをあらわにして肘立てを投げつけた。
(まだ光秀の事が忘れられないのか・・・俺のもとに嫁いてきて、少しずつ距離も縮まってきたものと秘かに喜んでいたのに・・・)
その様子を障子の外から下がったはずの琴乃がうかがい観て、秘かにほくそ笑んでいた。
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