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「そんなにイケメンなら私も会ってみたいなー」
「夢の中にスマホ持っていきたいわ。写真撮りたい」
すると友人は、「あ、じゃあさ」と鞄からノートを取り出した。
「似顔絵描いてよ! 雰囲気でいいから雰囲気で!」
友人に言われ、華衣はカレーの最後の一口をほおばり、もぐもぐしながら皿を端に寄せた。友人に差し出されたノートを開き、ボールペンの先を出す。夢の彼を想いながら、そこにペン先を滑らせた。
しゅっとした輪郭、すらっと通った鼻筋、きりりとした目元。マッシュヘアの髪は艶やかな黒色なのだが、先端だけが赤く染まっている。そんな裾カラーは今時でおしゃれなのに、彼はなぜか常に和装をしていた。白い着物に黒い袴。なぜか金色の幅の広い布を首にぶら下げていた。
「なに、それ」
出来上がった絵を見て、友人が言う。華衣自身も、描きながら「何か違う」と思っていたところだった。友人の頬が徐々に膨らみ、耐えられなくなったのか、ぷっと一息笑った。
「ちょ、ひど」
「だってさ、それ。……くくっ、人? っつーか絵下手すぎじゃね?」
「…………だって描けって言われたから」
華衣は唇を尖らせた。自分が壊滅的に絵が下手くそであることを忘れていたわけではない。けれど、何度も夢に出てくるイケメンならなぜかうまく描けるような気がしたのだ。
「あーもう、私はあの彼のイケメンぶりを伝えたかっただけなのに!」
「すごく……下手だねっ、……くくっ、ぷっ!」
腹を抱えて背を丸め必死に笑いを堪える友人につられて、華衣も笑ってしまった。
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