初めてのキスの日はいつだろう

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「あ、今日はダメ…そんな気分じゃないの」  デートの日。  陽が沈みゆく公園のベンチ。  いい雰囲気になったと勝手に思ってキスしようとしたら、また断られた。  そんな気分じゃないってどんな気分なんだよ、と心の中で思う。  もうこれで何回目だろう。  付き合い始めて何ヶ月にもなるのに、手を繋いで歩くのが精一杯。肉体関係はおろか、まだキスさえもできていない。  彼女はそんなに恥ずかしがりというか、純潔主義というか、そんな感じではない。僕のことも好きでいてくれていると思う。他に浮気相手がいるという感じでもない。なのに初めてのキスの日はのびてばかりだ。  その日もそのままバイバイしたあと家に帰って僕は考えた。  このままではいけない。  男尊女卑ではないけど、やっぱり男としては情けない。  次こそ絶対する。  拒絶されても、無理やりでもやってやる。  なぜかわけもわからずそう誓う僕だった。  1週間後。  デートの日。  夕暮れ時。  いつもの公園のベンチ、は縁起が悪いと思ったので違う公園のベンチに座る。僕なりの工夫。  「夕陽が綺麗ね」  彼女が言う。  そんなことはどうでもいいのだ。  僕は彼女の顔を強引にこっちに向かせてキスをする、はずだった。でも彼女の顔をあらためて見た瞬間、なぜかとんでもない言葉が口から出た。 「結婚しよう」  僕はいったい何を言ってるんだと思った。  緊張のあまり頭がおかしくなったのか。  彼女もあまりの出来事にショックを受けたようだ。いつもとシチュエーションが違うので「今日はダメ」の台詞は出てこなかった。そのかわりもっともっと天文学的にびっくりすることを言った。 「嬉しい…よろしくお願いします」  もうわけがわからなくなる。  いったいなんなんだろう、この展開は。 「いいの?ほんとに?」  気づけば僕はそう言っていた。 「もちろんよ」  彼女はしっかりうなずいた。  人生の中でこんなことってあるのだろうか。  さあ、どうしようと思いながら僕は何気に美しい夕陽を眺める。そこには幸福しかないように見えた。  彼女も幸せそうに夕陽を眺めていた。  僕は彼女の肩を静かに抱き寄せる。  さて、この後念願の初めてのキスができたかどうかは沈む夕陽だけが知っているのだ。               THE END
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