3.彼女の選択

1/2
前へ
/11ページ
次へ

3.彼女の選択

 翌日、宿を出た私達は、とうとう姪のいる村に到着した。  私はミスオーガンザを村長の家まで案内すると、村長と共に姪が顔を出す。姪はミスオーガンザの顔をまじまじと見つめると、がしっと抱きつき、顔を見上げて、満面の笑顔で言った。 「オーガンザおねえしゃま!?かあしゃまの、たいせつなおねえしゃま!」  ミスオーガンザは、ゆっくりしゃがみ込むと、姪と目線を合わせ、そっと姪の頭を撫でる。姪は興奮した様子で、ミスオーガンザに話しかけた。 「かあしゃま、とおしゃまとおでかけして、まだかえってこないの。でも、いっしょにかえってくるの、まってよう?」  姪は、両親の死を理解していないのだと、村長は言っていた。事故で酷い怪我をした両親の姿を、どうしても見せる事ができなかったと。  ミスオーガンザは、姪の言葉を否定も肯定もせず、ただ優しく、少し悲しげに微笑みかける。そして。 「お前の母様は、父様と一緒に、遠い所にいるんだ。戻ってくるまでは、とても時間がかかる」 「でも、いつかかえってくるんでしょ?」 「ああ。いつか、会える日が来るよ」 「じゃあ、まってる!ねえ、おねえしゃまも、いっしょにまってよう?」 「ああ、そうだね。でも、私も仕事をしなければならないんだ。だから」  ミスオーガンザは、姪を抱き上げる。 「母様が戻ってくるまでは、私の家で、母様の帰りを待とう」 「でも、ここにいないと、だめでしょ?」 「大丈夫だよ。母様には、お前が私の家にいると伝えてある。母様が戻ってくるまでは、私がお前の母様の代わりになろう」 「でも、かあしゃまは……ひとりだけよ?」 「ははっ、分かっているさ。母様が戻ってくるまでの話さ。なあお前、私の娘になるかい?」  きょとんとした顔をする姪。どうしようかと迷ったような顔をしてから、彼女はこくんと頷く。  それを見て、ミスオーガンザは、嬉しそうに笑った。 「そうかい。じゃあ、今日からお前は私の大切な娘だ。アステ、私の大切な子の娘。お前だけは絶対に、幸せにしてやるからね」  そして、ミスオーガンザは姪を強く抱きしめる。私は、その姿に、彼女へ抱いていた罪悪感が消えていくように感じた。私のした事は、間違いではなかったのだ……と。  私はその光景を、きっと、一生忘れないだろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加