1.手紙

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 兄夫婦が住んでいた家に、しばらく滞在させてもらう事にした。姪は、村長夫婦が世話してくれているという。本当なら彼らが引き取りたかったそうなのだが、もう高齢というのもあり、いつまで面倒をみれるか分からない不安があり、やはり親類に託すべきと考えたそうだ。  私は、兄夫婦の家から、奥方の親類に繋がる手がかりを探し始めた。だが、いくら探しても、手掛かりになりそうなものは全く見つからない。駆け落ちをするくらいだ、家族を捨てる覚悟で飛び出したのだろう。  念のため、と本棚から本を取り、頁をめくっていく。もしかしたら何か手がかりが挟み込まれているかもしれないと、藁にもすがる思いで何冊もそれを繰り返す。 (だめだ……何も見つからない)  ここまで探しても、何も見つからない。私は途方に暮れる。  その時、家の扉を叩く音がした。私が扉を開けると、そこには村長と姪がいた。村長は、どうやら私の様子を見にきたようだ。 「何か……見つかりましたかね?」 「いいえ。全く……」 「ワシらも探しましたが……。だが、ひとつだけ……」  そう言うと、村長は姪の肩に手を置く。 「この子が下げているロケットペンダント……これはこの子の母親が大切にしていた物だったんです。もしかすると、中に何か手がかりがあるかもと思いまして」  私は、姪の前に膝をつくと、彼女と目線を合わせて言った。 「おじさんに少しだけ、このペンダントを貸してもらってもいいかい?」  言葉の意味が理解できるか不安だったが、姪は少し考える様子を見せ、それからコクンと頷いた。 「ありがとう」  私は、ペンダントを首にかけさせたまま、ケースになっている部分を開く。そこには、女性の肖像画があった。だが、誰なのかなど当然分からない。  もうダメか、そう思った時だった。 「おーがんざおねえしゃまっていうのよ。かあしゃまの、たいせつなおねえたん」  姪の言葉に、私は驚く。その名前には、聞き覚えがあった。 「オーガンザ……まさか……あの……?」  女ながらに事業を立ち上げ、大成功した実業家……その女性と同じ名前だった。
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