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(彼女が……ミスオーガンザか)
彼女は、私の向かいに座ると、私が座るのも待たず、時間が惜しいといった様子で口を開いた。
「私の事を調べ上げたようだが、何が目的だ?ミスター」
開口一番そんな事を言われ、私は面食らってしまう。
「い、いえ……調べたわけではありません!本当に、言伝を頼んだ話の通りなのです!」
私は慌ててそう言うと、懐からあのペンダントを取り出し、ミスオーガンザに見せた。
「これがそのペンダントです」
ミスオーガンザは、私の手からペンダントを奪い取り性急にケースを開くと、その表情を歪ませた。
「それを持っていた子供が言ったのです。その絵の女性はオーガンザという名前で、母親の大切な姉なのだと」
顔を上げ、目を見開くミスオーガンザ。その表情は、青ざめているようにさえ見える。
「まだ信用はしていないぞミスター。その子供の父親は?」
「……私の兄です。女性と駆け落ちをして、ひとり娘を授かったと」
「駆け落ちだと?妹が?まさか!」
信じられないといった様子のミスオーガンザ。
「ご存知……なかったのですか?」
「家族とは、何年も前に縁を切った」
「そうでしたか……」
ミスオーガンザは、ペンダントをテーブルに置くと、ひとつ息を吐いてから言った。
「これはお返しする。今の話が本当か、念のためこちらで調べさせてもらう。それで?ミスターは一体何が望みだ?」
私は、緊張で体が強張るのを感じる。
「……残された姪を、引き取っていただきたいのです」
「なぜだ。ミスターが引き取ればいい」
冷たく拒否される。だが、こちらも引けない。
「私の家族が、反対しているのです。魔族と人間の混血である事を恐れて」
「馬鹿馬鹿しい」
「それはあなたが魔族だからだ。人間は、共に生きながらも、本能ではいまだ魔族を恐れている」
「なら仕方ない。その子の運命はそれまでだったという事だ。私にできる事はない」
「……ではせめて、あの子に対して直接説明するべきでは。私もあなたも、大切な者の血を引くお前を見捨てるのだ……と」
「分かった。場所はどこだ」
私が、姪のいる村の名前を告げると、ミスオーガンザは眉間に皺を寄せた。
「遠いな。だが、まあいい。調査が済んで本当の事だと判明すれば、私自ら説明に行く。日が決まり次第こちらの者から連絡させる」
そう言うとミスオーガンザは立ち上がった。
「私は忙しいので、これで失礼する。後のことは部下に任せるので、そちらから連絡させる」
そう言うと、ミスオーガンザは応接室を出て行ってしまう。入れ替わりに、部下と思われる男性が入ってきた。
「ミスオーガンザとの連絡役をさせていただきます。今日のところは、家までお送りします」
おそらく、送るというのは建前で、私の身元を明らかにするため、どこに住んでいるのか確認したいのだろう。
「分かりました。お願いします」
何もやましい事はないのだ。私は言われた通り、彼に馬車を用意してもらい、家まで送ってもらったのだった。
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