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2.馬車の中
連絡は、思っていたよりも早く来た。連絡役は、私の話は全て真実だと確認できたと言い、頭を下げてきた。
「ミスオーガンザが、無礼を詫びるようにと」
「いや……私も疑われても仕方のない事をしたのです。気にしないで下さい」
連絡役は、ミスオーガンザが私との約束を果たすと伝えてきた。翌日早朝に出発するが、もし同行するなら迎えに来ると言う。私はぜひ同行させてほしいと答え、連絡役を見送った後、すぐに準備に取り掛かった。
翌日、聞いていた通りに馬車が迎えにきた。荷台に荷物を載せてもらい、中に乗り込むと、ミスオーガンザが無表情でこちらを見てくる。少し怯んだが、気にしていない風を装う。
「おはようございます、ミスオーガンザ」
「おはようミスター」
挨拶のみ交わし、彼女の向かいに座ると、すぐに馬車は動き出す。
しばらく沈黙が続いて、最初に口を開いたのはミスオーガンザだった。
「全て調べさせてもらった。ミスターの言葉に嘘はなかった」
「疑われても仕方ない事です。姪の母に繋がる手がかりがあれしかなく、焦ってあなたの会社まで押しかけてしまった。言伝を頼んだ方にも、私の話を聞いて下さったあなたにも……感謝しかない」
「いや、そのおかげで、妹が亡くなった事を知る事ができた。縁を切ったとはいえ、妹を大切に思う気持ちに変わりはない。弔う機会を失うところだった」
私は、そこまで大切な妹なら、その娘を引き取ってもいいのではないかと思い、それを問うた。
「でも……その忘れ形見を引き取るつもりはないと?」
「そうだ。夫も子も持たないと決めている」
「なぜ」
食い下がる私に、ミスオーガンザはため息をつくと、冷たい眼差しでこちらを見た。
「ミスター、あまり首を突っ込むのは感心しない。あなたには多少の恩義を感じてはいるが、それにも限度はある」
「……分かりました」
これ以上は難しそうだと、私は引く。
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