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そして、日が落ちる頃、ようやく街に着いた。馬車が宿屋の前で止まると、ミスオーガンザが私に言った。
「今日はここで宿を取る。ああ、金の事は気にしないでくれ」
「そ、そういうわけには……!」
いくら実業家だとはいえ、馬車を出してもらうだけでなく宿代まで……さすがに甘え過ぎだ。だが、彼女は熱く潤んだ眼差しで私の両手を握ってきた。
「ミスターがいなければ、私は何も知らないまま、妹を弔う事さえできないままだったろう。その恩を返させてくれないか」
「わ……分かりました!」
私は慌てて、彼女から手を離す。彼女は少し驚いて、それから面白そうに笑った。
「ははっ!顔が赤いぞミスター!妻がいる男とは思えない純情さだな?」
「か、からかわないでください!つ、妻とも見合いで何とか結婚できたくらいで、それ以外まったく女性に縁がなかったんです!あなたの方がよっぽど男らしい……」
男らしさなど諦めてはいるが、それでも、傷つかないわけではない。目の前の彼女の頼もしさが正直羨ましい。だがそんな私の悩みを、彼女は笑い飛ばした。
「あはは!そうだな!お互い、生まれてくる性別を間違えたのかもしれないな!ははは!」
「はは……そう……かもしれませんね……ははは……」
気づけば、私も一緒に笑い、悩みなどどうでもよくなっていた。
私達は馬車を降りると、御者をしてくれていたミスオーガンザの部下から、荷台の荷物を受け取り、宿屋へと入っていったのだった。
宿を無事確保した私達は、全員で夕食を共にした。夕食でも酒をすすめられ、かなり酒が回ってしまった。眠気が強くなっていた私は、部屋へ戻ると風呂で軽く汗を流して、早々にベッドに潜り込んだ。
(何の変哲もない生活が……急に目まぐるしくなったな……)
手紙を受け取ってからの出来事を思い出しながら、私はそう時間をかけず、眠りに落ちた……。
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