2.馬車の中

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 目が覚めて、私は慌てて体を起こした。そこは、どこかの部屋の中だった。  私は、ハッと自分の首に手をやる。 (あれは……夢だったのか?)  首が熱を持っている。痛みもある。だが、ここはどう考えても地獄には見えない。  私はしばらく呆然としたまま、熱を持つ首に触れ続けた。  と、扉が開く音がして、そちらに視線を向けた私の目に、ミスオーガンザの姿が映った。 「ミスター、気がついたか」  彼女のその表情は、殺してしまわなくってよかったとでもいうように、ほっとして見える。彼女の目は、赤く充血している。  彼女は、私がいるベッドの側に、椅子を寄せて座ると、私を気遣うようにこう言った。 「どこか、具合の良くないところはないか?」  だが、私は自分がどう振る舞うべきか、何と答えていいか分からず、ただ彼女を見つめるだけ。いつまでも引かない首の熱が、私の思考を曖昧にする。  そんな私を、彼女は苦しげな表情で見ると、まるで責めるような口調で言った。 「なぜ、抵抗しなかった」  それでも、私の中には、怒りの感情は生まれない。うまく声が出せず、それでも何とか絞り出すように彼女に言った。 「……あなたの、言う通り、だと、思ったのです」 「何だと」 「私が、あなたに、辿り着かなければ、あなたは悲しむ事もなく、妹の幸せを、信じていられた。私が、それを、壊した」  そうだ。彼女の涙を見た瞬間、私は後悔と絶望に襲われたのだ。 「自分の無力さを、あなたに頼る事で、何とかしようとした。家族にも、姪にも、いい顔をしようとした。愚かな男、なのです」  私は、顔を覆う。泣く資格などないというのに、涙が止まらない。 「大切な兄の、忘れ形見だというのに……引き取ってやる事も……できない……兄さん……すまない……」  謝っても許されないと分かっているのに、謝らずにいられない。嗚咽を必死で抑えようとするが、体が震える。 「ミスオーガンザ……本当に……申し訳ない……もう……このまま……帰っていただいて構いません……あとは私だけでなんとか……します」  今なら、まだ間に合うのではないか。彼女が村に行かなければ、なかった事にできる。私は、懇願するように彼女に言った。だが。 「帰りはしないよミスター。そして、私の選択を見届けてくれ」  肩に手が置かれる。私は驚き、彼女を見上げた。 「いいの……ですか」 「ああ。心を決めた。もう、逃げたりしない」  そう言うと彼女は、そっと私を抱きしめた。彼女の体温が心の傷を癒すようで、私はされるがまま、彼女に体を寄せた。  それからしばらく、ただそれ以上もなく、私達は寄り添い続けたのだった。
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