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目が覚めて、私は慌てて体を起こした。そこは、どこかの部屋の中だった。
私は、ハッと自分の首に手をやる。
(あれは……夢だったのか?)
首が熱を持っている。痛みもある。だが、ここはどう考えても地獄には見えない。
私はしばらく呆然としたまま、熱を持つ首に触れ続けた。
と、扉が開く音がして、そちらに視線を向けた私の目に、ミスオーガンザの姿が映った。
「ミスター、気がついたか」
彼女のその表情は、殺してしまわなくってよかったとでもいうように、ほっとして見える。彼女の目は、赤く充血している。
彼女は、私がいるベッドの側に、椅子を寄せて座ると、私を気遣うようにこう言った。
「どこか、具合の良くないところはないか?」
だが、私は自分がどう振る舞うべきか、何と答えていいか分からず、ただ彼女を見つめるだけ。いつまでも引かない首の熱が、私の思考を曖昧にする。
そんな私を、彼女は苦しげな表情で見ると、まるで責めるような口調で言った。
「なぜ、抵抗しなかった」
それでも、私の中には、怒りの感情は生まれない。うまく声が出せず、それでも何とか絞り出すように彼女に言った。
「……あなたの、言う通り、だと、思ったのです」
「何だと」
「私が、あなたに、辿り着かなければ、あなたは悲しむ事もなく、妹の幸せを、信じていられた。私が、それを、壊した」
そうだ。彼女の涙を見た瞬間、私は後悔と絶望に襲われたのだ。
「自分の無力さを、あなたに頼る事で、何とかしようとした。家族にも、姪にも、いい顔をしようとした。愚かな男、なのです」
私は、顔を覆う。泣く資格などないというのに、涙が止まらない。
「大切な兄の、忘れ形見だというのに……引き取ってやる事も……できない……兄さん……すまない……」
謝っても許されないと分かっているのに、謝らずにいられない。嗚咽を必死で抑えようとするが、体が震える。
「ミスオーガンザ……本当に……申し訳ない……もう……このまま……帰っていただいて構いません……あとは私だけでなんとか……します」
今なら、まだ間に合うのではないか。彼女が村に行かなければ、なかった事にできる。私は、懇願するように彼女に言った。だが。
「帰りはしないよミスター。そして、私の選択を見届けてくれ」
肩に手が置かれる。私は驚き、彼女を見上げた。
「いいの……ですか」
「ああ。心を決めた。もう、逃げたりしない」
そう言うと彼女は、そっと私を抱きしめた。彼女の体温が心の傷を癒すようで、私はされるがまま、彼女に体を寄せた。
それからしばらく、ただそれ以上もなく、私達は寄り添い続けたのだった。
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