永久えの彼女

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  「純、ここはどこなの? それになんだか私、すごく背が高くなってる気がするわ、目線が違うもの。あと、髪型も変わってる……そうよね? 純?」  美夜がとめどなく話し続ける間、僕は何も口を挟まなかった。いや、挟めなかったと言ったほうが正しい。  それほどまでに混乱していた。久々の感覚だった。  美夜は明らかに、なんらかの記憶障害に陥っていた。僕を呼び捨てで呼ぶこと、自分が“身体の引越し”を行ったのを理解していないことから考えて、美夜は100年近くの記憶を失ったのではないか? 動揺する感情とは別に、僕の頭は冷静に状況を分析していた。 「純さん、どうやら美夜さんは、ここ100年ほどの記憶がないように見受けられます……。美夜さんを責任もってお預かりした身として、申し訳がたちません。このようなことになってしまった責任は、全て私にあります」  放心したように黙り続ける僕に、店主が言い募る。謝り続ける店主の声で、揺らいだ感情が少し平静に戻った。 「いや、店主さんの責任ではない……と思います。いつも通りに施術されたんですよね?」 「は、はい、それはもちろん……」  “身体の引越し”の施術は、何度かお目にかかったことがあるが、僕らの“中身”が損なわれる要因にはほとんどなり得ないはずだ。  だとすると、むしろ原因は美夜本人にあるかもしれない、とまで考えて、僕は被りを振った。まさか、美夜にそんな動機もあるまい。 「純……?」  美夜が不安げに僕を見遣っている。こんな美夜の姿は、本当に久々に見る。最近の美夜といえば、僕をアゴで使うばかりなのだから。  僕は迷った。美夜の記憶がどうしてなくなってしまったのか、それをどうすれば取り戻せるか、それを考える前に、美夜にどこまでこの“世界”のことを話すか。  なにせ、美夜の今の見た目は100年前の身体——元の身体とは全く違うものになっているのだから。  そう、絶対に誤魔化せないのなら、いっそ全て話してしまおうか。 「美夜、落ち着いて聞いて」 「えっ、う、うん……」  僕は美夜の両腕になるべく優しく手を置いて、言った。 「今は23XX年……、君は100年以上生き続けているんだ」  しまった。率直すぎた。
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