引っ越しを兄の友人に頼んだら

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 確かに、そこそこの重労働であったこともあり、お腹が空いて仕方がなかった。  兄の言う通り、3人で外食をすることにした。その中で、浦井さんの「実は来る途中に美味しそうなラーメン屋さん見つけたんだ」という言葉に飛びつき、ラーメンを食べに行った。  自分が奢るつもりだったが、「引っ越し祝いってことなら兄の俺がやってやるよ」と兄が全て支払ってくれた。  そうしてお腹をしっかり満たし、二人と別れ、新しい部屋に戻ってきた。  瞬間、また自分の心が部屋を見た時の興奮がむくむくと湧き上がってくるのを感じていた。 「そうだ、マットってどんなのだろう?」  本来なら必需品を開けて整理するべきなのだろうが、とにかく浦井さんがプレゼントしてくれたものが気になって仕方なかった。  だから、その好奇心のまま、開けた。  出てきたのは、浦井さんが行っていた通りテーブルの下に敷くのにぴったりの円形のマットで、淡いピンク色に濃い桃色のハートがドット状の模様で描かれたなんとも可愛らしいマットだった。  折り畳み式の水色の涼しい色合いのテーブルの下に敷くには間違いなく合うだろう。  けど。  俺は、男だ。 「なんで……?」  呟くと同時に、ピロンっとスマホが鳴った。  無意識に、体が強張った。  見れば、知らない番号からのショートメッセージだった。 「気に入ってくれた?可愛い君にぴったりと思ったんだ」  俺は冷や汗がぶわぁ!と浮かぶのを感じた。  なんせ、俺は180㎝以上の背丈で筋トレが趣味の生粋の男だ。  しかも眉は太く顔は厳つい方で、幼いころに暴れまわって額に傷があるし友人から「やくざかよ」って笑われるぐらいの容姿をしている。  それを可愛い、という浦井さんに、俺は言いようのない恐怖に包まれた。  何より、こんな厳つい俺にチョイスしたマットのデザインや色が、余計に俺にじわじわと恐怖を与えてきた。なんというか、得体のしれないじっとりとした強敵が迫ってくるような、そんな、恐ろしい感覚。  俺はその日、友人の部屋に適当な理由を言って泊めてもらい、再び引っ越した。  兄に住所は伝えなかった。  ショートメッセージのスクショを送ったら「すまん、逃げろ」と言ってくれた。
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