引っ越しを兄の友人に頼んだら

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 新しい部屋の匂いは、畳の独特の香りが広がっていた。  引っ越しに来る際に新しいものに変えていたとは聞いていたが、新品の畳というものはこんなに落ち着く香りというか、「うっわぁ、ここ日本やな!」という感想を思わず抱いてしまうような和の香りに満ちていて、我ながらバカっぽい感想だとは思うが、今はたくさんの初めてに囲まれていて心が高揚しまくっているので仕方がない。  思い切って新品の畳の上に大の字でダイブするように寝転び、誰もいないことをいいことに平泳ぎのように手足を上下させて泳いで、自分だけの部屋、というのを満喫する。  今日から、あこがれの一人暮らしを始めるんだ。  兄弟が多くて家族全員で6人で住んでた一軒家は、まぁまぁ広さはあるものの、自分だけのものというものがなかった。机やいすは共同だし、トイレや部屋とかも勿論誰かと共同。唯一自分のものとだけ使っていたのは靴だけかもしれないってぐらい、常に家族の誰かと同じものを使っていた。  でも今日からは、全てが自分の物、だ。  ずっと憧れていた一人暮らし。  この日をどれほど待ったことか。  念願の引っ越しにウキウキするあまりに、荷物より先に部屋に来たことは正解だったと一人で住むに十分な広さを堪能していた。あと畳に、自分の匂いとか油とかをこすりつけんばかりにスリスリした。あまりにも嬉しくてちょっと異常行動していたのは、否定しない。  そうしてアホみたいにテンションあがって何もない部屋という自分だけのものに満喫していると、チャイムが鳴った。 「来た!」  きっと、自分の荷物がきたのだ。  早速扉を開けると、思った通り、そこには一番上の20歳である兄と、その友人である浦井さんがいた。
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