だいすきのうた

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   その日は、午後から激しい雨が降ると予報されていた。  けれど、起きた時にはまだ明るい陽が差していて、これから雨が降るなんて想像も付かないくらい、穏やかな朝だった。 「カケル、今日期末試験でしょ?ちゃんと学校行きなさいよ」  久々にリビングでまともに顔を合わせた私は、おはようの挨拶よりも先に説教じみた言葉を掛けてしまった。  夫は今日も出張で、飛行機で移動する距離の県にいるため迎えた二人きりの朝。 「うっせーな、分かってるよ!」  カケルは面倒臭そうに私に返事をすると、通学バックを肩に掛けて朝食も食べずに玄関から出て行く。 「ちょっと、今日は午後から雨よ!傘は?」  思わず声を掛けたが、カケルは早足で家から離れて行く。  これは一分一秒でもこの家にいたくないという意思表示なのだろうか。 (ま、いいか。傘ぐらい。少しは雨に濡れて頭冷やせばいいのよ!) ……自分に言い聞かせるが、その日は何となく気持ちが落ち着かなかった。それが何故なのかは分からないけれど。 (ああっ、もう!カケルのバカ!)  私は傘を片手に玄関のドアを開け、先程出て行った我が息子を追う。  カケルは車の通りが多い交差点の横断歩道で信号待ちしていた。  よし!と思い、私は全力で走る。カケルの為に全力出すのは何年ぶりかと思うレベルで走ったと思う。 「カケル!待ちなさい!」 「あぁ?何だよ」  信号が青に変わり、三分の一ほど進んだ所でカケルは振り返り、物凄く嫌そうな顔で私を見る。 「傘!今日は雨が降るから!」 「あー?傘なんかいらねーよ、荷物になるし」  何とも気怠そうな声で返事をするカケルに、私もムキになり「いいから持ちなさい」と言おうとした時―― カケルに向かって大型乗用車が突っ込んできた。 「あぁ?」 「カケル!!!」  咄嗟に私はカケルの肩を力一杯突き飛ばす。  その瞬間の、目を見開いたカケルの顔が私の脳裏に焼き付いたような気がした。 ――ドンッ!!!
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