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おそらく、自分はすでに死んでいるのだろう。
だから、カケルの制服だけ持って謎のタイムリープなんて非現実的な状況に陥っているのだ。
(そう、私は、もう……)
今見ているのは、いわゆる走馬灯というものなのではないだろうか。もしかしたら、昔の温かい記憶に包まれて幸せな気分で命を終わらせてくれるという神様の慈悲かもしれないし、カケルを幸せにしてあげられなかった私に、後悔しながら消えろという罰なのかもしれない。
「ごめんね、カケル。ママは貴方に何もしてあげられなかった」
今この時、何かをすることで運命を変えるチャンスが与えられたとしても、私にはその答えが分からない。
私は全力を尽くしたつもりだったのだから。
客観的に見れば、きっと色々足りないものはあったのだろうけど。
敷かれた座布団の上に伏せるようにして、私はしばらく泣いていた。
その時、ぴたりと手に何かが触れた。
顔を上げてみると、いつの間にか目を覚ましていたカケルが私の手を触りながらこちらを見ている。
「カケル……」
つぶらな瞳で、泣いている私のことを不思議そうに眺めるカケルは、私の呼びかけに対してニコリと笑った。
ああ、これが罰だとしても、この後仮に地獄に落ちたとしても、私は後悔なんてしないだろう。
最期にとびっきりの、素敵な笑顔を見ることができたのだから。
「大好きだよ」
小さな手を、優しく包むように握り返す。
――よかった、ちゃんと言えた。
そう思った時だった。
「――さん、」
「……」
「母さん!」
「……?」
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