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塔の崩壊から数年が経つと、人々は土地ごとに離れて暮らすことに慣れていきました。ただ一人の強き王はいなくなりましたが、それぞれの土地に為政者が生まれて、色々な国の形が出来ていったのです。ある国ではやはり一人の強き王が支配し、またある国では集団の中から賢い者たちが話し合って治めていました。他にも王は必要ないとして皆が平等に暮らす国もありました。
言葉が違うため隣りの国とは意思の疎通が出来ずに、毎年のように小競り合いがありました。なぜなら土地があれば食料は増え、人も増え、国が栄えるからです。
最も戦争をしていたのは平等を掲げる国でした。その国は、全ての国の全ての人間が平等にならなければならないという信念から、何度も隣国へと攻め込みました。
次に戦争をしていたのは強き王の治める国です。この王はかの唯一王の子孫であり、塔を建設していた土地を聖地と定めていました。塔から最も離れた土地に国が出来たので、聖地を目指すため進路にある国へ戦争を仕掛けていきました。王は聖地奪還の後に新たな塔を建てることが悲願となっていたのです。
国々は何度も何度も争っていくうちに、たくさんの自国の民が死んでいくことを悲しみました。そして次第に命を奪い合う戦争から、いかに神へ近付けるかという争いになっていきました。
そう。それぞれの国で塔の建設が行われたのです。
それぞれの国で、それぞれのやり方で塔が建てられていきました。ただ一国、唯一王所縁の国だけは聖地での建設にこだわり戦争を続けました。
各国では他の国へとスパイを送るようになり、情報の奪い合いが生まれました。そして盗み出す過程で異なる言語を学習していき、言葉の壁には小さな穴が開いていったのです。
神にも誤算がありました。
人間を散り散りにすれば神の世界を脅かすことはないと思っていたのに、寧ろ競うように塔を建てていく人間の国たち。ともすれば唯一王の頃よりもはるかに速く、たくさんの塔が建っていったのです。
そして、とうとう天の頂に塔が届きました。それぞれの国の塔が、雲の浮かぶ遥か上まで伸びていました。ただ一つ、王の国だけは焦りのあまり各国の邪魔を優先したため、次第に国力を失い消滅してしまっていました。
果たして神の国はどうなっていたのか。
そこはただ夜が広がっているだけでした。
神はすでに人間に見切りをつけ、空よりも高く、宇宙の彼方へと移っていたのでした。
人間たちは塔の上から地上を見下ろし、そしてまた上へと顔を向けました。
ああ、どこまでも暗く広がる闇の中にも星々が輝いているではないか。
我が国こそ、あの星々を手に入れてやる。
人間たちは神の存在を忘れ、ただ自分の欲望のままに手を広げていったのです。
かの唯一王すら霞むような傲慢さで。
終わり
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