あなたに「おかえり」を贈らせて

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毎朝一緒に登校する優雨の顔が徐々に曇っていくのを感じて、そしてそれが優雨の家庭があまり良くない状況になってきたからだと勘づいて、私はその頃に二人だけの秘密基地を作ろうと提案した。 始め優雨は秘密基地にあまり興味を示していなかったが、私が勝手に楽しく秘密基地の構想を練っているうちに、段々と一緒に考えてくれるようになった。 田舎の小さな町だったから空き家もそれなりにあって、そのうちの最も古い、誰も近寄らない家の裏を二人だけの秘密基地とした。 人の手が入らなくなったせいで鬱蒼としている庭を何とかくぐり抜けて、家の裏手に回る。ここならたくさんの植物が私たちを大人たちの視線から守ってくれるし、日を遮る良い屋根になってくれそうだった。 「うん、ここで決まり!」 誇らしく宣言して、優雨の方を見た。 木陰からちらちらと差し込む太陽の光が時折優雨の顔を照らす。 「これからここが私たちの家だね」 「ここが、家」 頭上の木々を見上げながら優雨は不思議そうに、意味を確かめるかのように、そう言った。 優雨、ここが私たちのお家なんだよ。 優雨はここに帰ってくればいいの。 自分のことを語ろうとしない優雨の数少ない言葉から、優雨のお母さんが恐らく優雨を叩くこともあることや、優雨が給食以外できちんとご飯を食べていないことが多いことを、私は察していた。 だから優雨の家を私が作りたくて、 優雨にもっと笑って欲しくて、 私は必死だったのかもしれない。 「ゆうちゃん、ここは二人のお家だから入る時にただいまって言うのはどう?」 優雨が私の方を見る。 雨みたいに寂しくて春みたいに優しい優雨の視線が私の視線とぶつかる。 優雨は小さく笑って、言った。 「ただいま」
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