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半分開けた窓から一筋の風が吹き込んでくる。
排気ガスの後ろに秋ののどかな香りが浮かんでいた。春に上京した時にはなかった秋らしい風の香りに思わず頬が緩む。
もう秋だ。
それはつまりあの子と離れてもう半年ほど経つということだった。
信じられない。
けれど今日でその記録の更新は止まる。
ラグもシーツも枕カバーも何もかもを洗濯し、風呂掃除をし、掃除機をかけた部屋は清潔な香りが漂っている。こんなにも心地の良い休日は久しぶりだった。待ちきれなくて、壁にかかっている時計を見る。
そろそろだ。
そろそろ着いてもおかしくない時間だ。
その時インターホンが鳴った。
尊は玄関に駆け出した。
出来るならばその時間さえも飛ばしてしまいたい。
ドアに手をかけて、押す。
ドアがゆっくりと開いて、開いた先に彼女がいた。
相変わらずの茶髪。
耳から垂れ下がっている有線のイヤホン。
優雨、そう私が呼ぼうとする声を遮るように彼女が言った。
「尊、ただいま」
優雨の瞳が、あの日二人で見た夕方の雲のような優しい色を浮かべて揺らいでいた。
私の帰る家は、あなたの居る場所。
あなたが居ないなら、私は「ただいま」も「おかえり」もきっと言えないままなんだろう。
私はとびきりの幸せを噛み締めて言う。
「おかえり、優雨」
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