あなたに「おかえり」を贈らせて

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「荷物いれちゃいますねー」 続々と荷物を運び込む引越し業者に礼を伝えると、私は狭いベランダに出た。鼻腔を通り抜ける風に微かに排気ガスが香っている。 引っ越してしまった。大都会に。 いつかこの狭苦しい部屋が自分の城になるだろうか。ここがわたしの帰る家だと思えるようになるだろうか。 とてもそうは思えない。 コンビニの袋を持ち、覚束無い足取りで歩く道路のおじいさんを見下ろしながら、自分が見知らぬ土地に住もうとしていることを今更不思議に思った。 私は今、彼女から離れた場所にいる。 きっとこんなにも現実が嘘のように感じるのは、ずっと一緒に生きてきた彼女が隣に居ないからかもしれなかった。 彼女は元気にしているだろうか。 今もいつも通りの涼しげな顔をしているだろうか。
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