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私が彼女から初めて貰った音楽はバースデーソングだった。
街の外れにある長い間誰も住んでいない、ほとんど廃墟と化している古い空き家の裏に、私たちは小学生の頃、秘密基地を作った。秘密基地といっても彼女が家から使わなくなった小さなプラスチックの机を持ってきてくれて、それが一つあるだけだったけど、私たちにとっては確かに家だった。
「私、今日誕生日らしい」
特別な意味を込めて尊に教えたわけじゃなくて、その頃には段々と崩壊し始めていた母親が朝気まぐれに伝えてきた情報を、ただ伝えてみただけだった。
机を挟んで向かい合っている尊は驚いた表情をして、そしてなぜだか少し悲しそうに俯く。
「どうしよう、誕生日プレゼント何にも用意してないよ」
そう小さく呟いた尊は突然、それよりも大切なことがあったとでもいうようにぱっと顔を上げて、私の目を見つめた。
朝の太陽みたいに輝く尊の瞳が、私を捉える。
「誕生日おめでとう、ゆうちゃん」
尊は幸せでたまらないというような顔をして私にそう言うと、白くて可愛らしい瞼を閉じて歌い出した。
「ハッピーバースデートゥーユー」
初めて聞いた生きた音楽は、とても温かくて柔らかい不思議なものだった。
私は彼女から音楽を貰った。
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