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「レポートは23時59分までに提出して下さい」
教授の機械的な連絡を受け取って講義室を出る。今日の昼食は大学で付き合うことになった男と食べる。入学して一週間で声をかけてきた彼は手当り次第に女に声を掛けて彼女を作ろうとしているのが明白で、その単純すぎる動機と粗雑さが今の私にぴったりだった。
隣であれこれ話す彼の言葉に笑って頷く。
彼が何を言っているか、きちんと聞こえているはずなのにあまり頭に入ってこない。
昼は長蛇の列になる学食で、一番不人気で列が短かったからという理由だけで選んだカレーをスプーンで掬う。
原価を安く抑えようとしているのか具材があまり入っていないカレーを口に運びながら、ふと茶髪の彼女を思い出した。
丁寧にカレーを口に運ぶ優雨。
清楚な薄い唇に一匙のカレーが吸い込まれる。
美味しそうに少しだけ上がる小さな口の端。
大学で自分の人生を切り開きたいと何となく思っていた。そう思っていたから、当たり前のように生まれ育ったあの小さな町から出て、東京にあったこの大学に行こうと決めた。
でも私は。
私のやりたかったことは。
もしかしたら、ただ優雨とあの家でカレーライスを食べることだったのかもしれない。
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