あなたに「おかえり」を贈らせて

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「私、東京の大学に行こうと思ってるんだよね」 ぼんやりとした夕日が差す放課後の誰も居ない教室で、二人で机を並べて勉強していた最中に、何でもないことのように尊はそう言った。 「そっか」 私も何でもないことのようにそう返す。 私たち以外に誰も居ない教室にシャーペンの音だけが反響する。 いつかこういう日が来ると分かっていた。 とっくの前に「普通」からは遠く離れていた私が、尊みたいな女の子を縛り続けていて良い訳がなかったからだ。だから少し安心した気持ちもあった。 これで尊は私から離れられる。 明日を生きるのに精一杯で勉強なんてどうでも良かったのに、頭の良い彼女に教えられるまま、彼女と同じ進学校に進んだ。 大学なんて行けるわけもないのに、彼女が一緒に勉強しようとねだるから、バイトの合間を縫って毎日勉強した。 ごみまみれの家で母親からどんなに罵声を浴びせられても、どんなに働いて貯めたバイト代を取られても、私には彼女のくれた音楽があった。 尊が居たから私は生きてきた。 その日の帰り、髪を染めた。 尊が居なくなっても、私は生きていかなければならない。だからそのためのお守り。 あの日のカレーライスみたいな茶色。 「明るい茶色に染めてください」
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