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「今日は二人暮らしが始まるスペシャルな日だからね、カレーライス持ってきたの!」
懐中電灯に照らされた尊は目をらんらんと光らせながら、可愛らしいピンク色のリュックから透明な容器を取り出した。二つの白い紙皿に尊がとろっとした茶色の食べ物とご飯を盛る。
食欲を刺激する香りが辺りに漂う。
「じゃあいただきますしよう」
「いただきます?」
ぽかんとした私の声を聞いて、尊はそっと私の両手を掴むと手のひらを合わせさせた。
夜の冷えと正反対の暖かい尊の手が、私の手を包む。
「こうするんだよ、いただきます」
「いただきます」
茂った植物たちが守る秘密基地に、二人の声が密やかに響く。引っ越し記念日に食べたカレーライスは、人生で一番美味しかった。
尊はあのカレーライスのことなんてきっともう覚えてないだろう。
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