あなたに「おかえり」を贈らせて

7/12
前へ
/12ページ
次へ
「今日は二人暮らしが始まるスペシャルな日だからね、カレーライス持ってきたの!」 懐中電灯に照らされた尊は目をらんらんと光らせながら、可愛らしいピンク色のリュックから透明な容器を取り出した。二つの白い紙皿に尊がとろっとした茶色の食べ物とご飯を盛る。 食欲を刺激する香りが辺りに漂う。 「じゃあいただきますしよう」 「いただきます?」 ぽかんとした私の声を聞いて、尊はそっと私の両手を掴むと手のひらを合わせさせた。 夜の冷えと正反対の暖かい尊の手が、私の手を包む。 「こうするんだよ、いただきます」 「いただきます」 茂った植物たちが守る秘密基地に、二人の声が密やかに響く。引っ越し記念日に食べたカレーライスは、人生で一番美味しかった。 尊はあのカレーライスのことなんてきっともう覚えてないだろう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加