捨てられない彼女の災難

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 元木 璃々奈(もとき りりな)は涙目で部屋に座り込んでいた。周りには(すさ)まじい数の段ボール箱。そして、まだ箱に詰められていない数多(あまた)の物達。引っ越し業者が来るのは明日なのに璃々奈の準備は終わっていない。引っ越し準備のために仕事も休んだのに。こんなことなら素直に友人の手を借りれば良かった。  「でも……」  友人は容赦(ようしゃ)なく物を捨てるだろう。璃々奈は物を捨てられないタイプだ。非正規の色々な職場を渡り歩くからか思い出の(よすが)になるものを持っていたいと思うのだ。保育園の子ども達からもらった折り紙やどんぐり、いつのまにか10冊になりそうな様々な仕事のメモ、年賀状、手紙など。ちりも積もればというやつだ。  璃々奈はいつもそうだ。スマートフォンの中の電話帳も把握(はあく)しきれないほどに増えている。基本また関わることはないと頭ではわかっているのだが、もし連絡が来た時に誰かがわからないと失礼かもしれないと考えてしまえばデータを残しておこうと思ってしまう。仕事のメモもまた使うことがあるかもしれないと思ったら捨てられない。なるべく他人に聞かないようにしたいから。  周囲の人間は本やDVDもあまり観なくなったものは売って小金にすればいいなんて言うけれどとんでもない。忙しくて手が出ないことも多いけれどどれも大好きなものだ。また無職になった時や休みの日、老後に絶対にあってほしいもの。  これから引っ越すのは少し人里離れた中古の一軒家。人に気を(つか)い過ぎる璃々奈は一軒家の方がいいのではないかと勧められて購入を決意。地道に働き続けるなら分割で払い切れると思い切った。しかしいざ荷物をまとめ始めればすごい量。マンションの一室よりも広いから大丈夫と思っているけれど……。友人が言っていたことを思い出す。どうしようもなくなったら無心で詰めろと。捨てられないなら持って行くしかないのだから確かにそれしかない。ひたすら詰めて、封をして、積み上げるを黙々(もくもく)と繰り返し空が白み始めた頃、ようやくすべての荷物がまとまった。  「疲れた……」  数時間は眠れるだろうか。(はし)っこに置いておいた毛布に半ば()っていく。と、びきびきと妙な音が耳に響いた。地震? と首を傾げた次の瞬間がくんと浮遊感を感じ、何かが崩れる音がして視界が真っ暗になった。
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