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「痛……何……」
とりあえず思い切り体をあちこちぶつけたようだが毛布を咄嗟に掴んだからか大きな怪我はしていない。埃っぽさに咳き込みながら周囲を見渡す。暗くて見えないけれど湿った土の香りがする。数歩先に箱の影が少し。一体何が起きたのか。
「大変だ!」
「誰かいますか⁉」
慌ただしい気配と声が上から聞こえてきて顔を上げる。懐中電灯だろうか、眩しい光に目を片手で庇いながら声を返す。
「103号室の元木です! 何が起きたんですか⁉」
「マンションが倒れている。瓦礫の上に落ちてしまった人もいるみたいだ」
「今、消防と救急を呼んでいますから頑張ってください」
そんなに簡単に壊れるような築年数じゃなかったはずなのに。璃々奈は呆然とした。もういっそ大声で泣きたいと思うもこの期に及んで他人を困らせたくないとか、引っ越しが無事に出来るだろうかという心配をしているのだから我ながら始末に負えない。なんだか笑えてきてしまった璃々奈は毛布に包まっておとなしく待った。
数時間後に無事救出され、念のために搬送された病院の一室で温かい飲み物を飲んで璃々奈は深いため息をついた。あちらこちら湿布は貼られたが一番軽症だったというから喜んでおかないといけないだろう。あまりにも突拍子もない出来事に遭ったからか頭が麻痺したようにぼんやりとしている間にニュースを見て驚いた両親や友人が駆けつけてくれ世話を焼いてくれた。入れ代わり立ち代わり色々な人が話しに来た気がする。保険屋さんとか、マンションの管理会社の人とか。
マンションは地盤沈下か、別の要因かわからないが1階部分の床が斜めに落ちるような形で崩落、その衝撃で上階の部分が斜めに飛ぶように落ちたと言っていた。よく無事だったものだ。ただ、あの大量にあった段ボール箱の大半が使えなくなったり、深い穴に落ちて見つからなかったりした。
何とか救ってもらった荷物と共に璃々奈は1週間遅れで新居に入った。緑の屋根の落ち着いた二階建ての家。家庭菜園もできそうな広さの庭は雑草が蔓延っているけれど整備すれば念願のハーブや花を植えられるだろう。日当たりも良く、家の暖房費も節約できそう。玄関は少し狭いけれど1階には庭に面した大きな窓がある。風呂はゆったり足を伸ばせるサイズでうれしい。2階部分は6畳の部屋が3つ。ひとつは本の部屋にするのだと思ったのが決め手だった。マンション崩壊事件は大きな痛手だったが引っ越しが決まっていたのが幸いだった。
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