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選択と集中。
今の政府の方針だ。分散している過疎地域のインフラ全てをメンテナンスする力はもうない。それはわかっている。
住民数が一千人以下になると、道路のメンテナンスがなくなる。五百人以下になると、上下水道のメンテナンスがなくなる。電気やガスはそれぞれ民営会社のルールで決まるから、いつ、止まっても不思議じゃない。
私はリアルタイムで表示される住民数動向のアプリから目が離せない。
休みのたびにこの街から人が減っていく。
電車の便数が減って、茂は一本早い電車で出社しなければならなくなった。
スーパーが撤退の方針を打ち出し、住民が反対運動をしている。ただ、その住民自体がどんどん減っていくのだ。
「引越し、考えようか」
茂がポツリと言った。
「そろそろ、子供を考えようと思っていたけど、これじゃ、学校に入る歳になる頃にはまわりは全部、廃校になっているだろう」
「でも、どこへ行けばいいの?」
どこの自治体も人の取り合いに必死だ。補助金もあるので引っ越すことにはそんなに金銭負担はない。
でも、どこへ?
前の家の地区は茂の実家があったところだが、自治体は消滅した。茂の両親は娘さんのところ、私の両親は名古屋に住んでいる。そこなら、まだ、大丈夫かもしれない。
本当に?
補助金狙いで引越しばかりする引越し族と呼ばれる人たちもいるらしい。自治体によっては補助金の条件を五年以内に出て行った場合は返却するなど厳しくし始めた。
でも、その自治体が五年続くかどうか、どうやったらわかるんだろう。
住民数動向のページを見過ぎて、夢でも見てしまった。
地図の上をたくさんの矢印が動いていく。その先を追いかけ、見ようとしたが、目が覚めてしまった。
まだ、引越し先は決まらない。
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