ゴースト&トゥルーエンド

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『サイキックボーイ』は基本的にギャグ漫画だ。自分のことを超能力者だと信じている主人公ボーイが日常に起こる様々な事件を引っ掻き回して、そのうちにいつの間にか解決している、というものだ。絵もコマ割りなどの演出もそれほど上手とは言えず、確かにあまりネット上に情報が落ちていないのも頷ける。  ……だが、作品には不思議な魅力があった。キャラクターの性格が突飛なのは突出した個性だし、毎回予想できない展開なのにも関わらず破綻なく終わる物語にも惹かれるものがあった。一ページめくるたびにユウタ君が興奮するのもわかる。  物質に干渉できない彼のために隣で待機しつつ読んでいるうちに、いつの間にか俺もファンになっていた。引っ越してきてひと月ほどが経つが、気づけば毎朝の日課である読書を終えてから晩まで、俺たちは感想を語り合い、次の展開を予想し合う仲になっていた。いや、それだけではない。俺と彼の共通の話題は、俺の本棚に揃えられた数多の漫画作品にまで及んでいた。 「酒木さんがここに越して来てくれて、本当によかったですう」  最近、彼はよくそんなことを言う。俺はお前の成仏を手助けしているだけだと言っても、もう縮こまらない。俺がそれだけの理由で彼と接しているわけではないことをわかっているのだろう。実のところ、俺も愛する漫画作品について心置きなく喋り合える友人ができて、とても嬉しかったのだ。  だから物語が佳境に近づくにつれ、もうそろそろユウタ君と一緒に過ごすこともできなくなるのか、という感慨を抱くようになってしまった。  社会人になって五年ほど、色々あって悩み、仕事を辞めた。貯金を切り崩しながら、新しい就職先を探すばかりの日々になるはずだった。それが、学生に戻ったかのような楽しい毎日を過ごせるなんて……思ってもみなかったのだ。  しかしここまで来たら最後まで付き合ってやるのが友人というものだ。少々寂しいが、ユウタ君が心残りなくこの世を去れるのなら、それは俺にとっても幸せというものだ。  そんなふうに、残りわずかな日々を惜しむように過ごしていたのだ。あの文字を見るまでは。
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