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ついにこの日がやってきた。昨晩遅くに完成した『サイキックボーイ』を、ユウタ君が初めて通して読むのだ。ユウタ君はいつものようにふわふわと楽しげだが、俺は若干緊張しながらページを繰っていく。
ボーイの出生の秘密、彼には本当に超能力がありそれこそが人類を救うのだと明らかになる場面で、ユウタ君が鼻をすする音が聞こえた。ラスボスを倒したボーイが、これまで出会った人たちから感謝されて別れを告げる最後のコマを読み終えた時、ユウタ君はすり抜けるのも構わずに、俺に抱きついた。
「ううう、酒木さん。描いてくれてありがとうございます。これが本当に読みたかった『サイキックボーイ』最終回ですう」
すり抜けてしまった彼の後頭部を横目で見ながら、俺は笑って頷いた。
「俺のほうこそ、描かせてくれてありがとう」
一緒に楽しい時間を過ごさせてくれて、ありがとう。
そう伝え切る前に、彼の姿はサッと消えてしまった。
成仏してしまった。
思っていたよりもあっけない別れだ。でも、これでいいのだろう。彼は十年以上もこの部屋に囚われて、未練を抱いたままだったのだ。それが今、ようやく天に昇ることができた。そして俺も……自分の気持ちは中途半端なんかじゃなかったことに気づけた。
昨晩からそのままになっていた道具類に目を向ける。原稿用紙もインクも買い足さなくてはならない。描きたいイメージが溢れてきて、俺は再び机に向かった。
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