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 スポットライトに照らされた父さんがおれたちに目配せするたび、おれは地面から少し浮くような気持ちになった。興奮で飛び跳ねそうになるのを堪え、バレないように周りを見回す。リズムに合わせて手を突き上げる人、体を揺らす人、誰もがステージ上の父さんを見上げている。  父さんにとっておれと母さんが特別な存在だってことをみんなに言いふらしたくなって、おれは慌てて口を塞いだ。 「あれは母さんに作った曲でしょ?」  ライブの帰り道、そう言い当ててみせると、父さんは観念したように肩をすくめた。耳をほんのり赤くした母さんが歩く速度を上げる。きっと照れ隠しなのだろう。  父さんが家族のために歌うとき、おれにはわかるんだ。いつもより声がやさしくなるから。
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